テナガショウジョウバエにおける
縄張り行動の実証とその繁殖上の意義

論文 “ Reproductive advantage of the winners of male-male competition in Drosophila prolongata” が Behavioiural Processes 誌に掲載されました。以下、解説記事です。


カブトムシのオスが樹液酒場で争いメスを獲得する様子は多くの人々に馴染みのある光景と言えるでしょう。強いオスがエサ場や住処となる場所を占有し、その場所を利用するメスとの繁殖を有利にするシステムは性的二型(武器や大きな体格がオスにおいてのみ見られること)が進化する要因になったと考えられています。しかし、性的二型をもつ多くの種でそのような仕組みの重要性が想定されているものの、縄張り行動を実証しそれが繁殖にもたらすメリットまで定量的に示した例となると限られてしまいます。その一因として、縄張りの実証には闘争に関与する複数のオスの位置やその行動を同時に計測する必要があり、人の目で客観的に評価するのが難しいことが挙げられます。


私のいる研究室では顕著な性的二型を見せるテナガショウジョウバエ(オスはメスよりも体が大きく、長い前脚をもっています)を用いて研究を行ってきました。2頭のオスの真ん中にエサ台を用意してやるとオス達はエサの上で激しく取っ組み合いをして片方の相手を追い出し、もう片方がエサ台を占有し(ているように見え)ます。

しかし、これが果たして縄張り行動と言えるのか、エサを占有することが繁殖において有利になっているのか、定量的な根拠がありませんでした。そこで私たちはオス2頭・メス1頭の行動を撮影し、 以前開発した深層学習による自動解析システム を用いて、2頭のオスの位置関係、闘争が起きた場所、メスへの求愛頻度(とその時にもう一方のライバルがいる場所)を同時に解析することで、これらの疑問にアプローチしました。

その結果、

・エサ台への滞在時間は大幅に片方のオスに偏る

・オス同士の取っ組み合いはエサ台の中心近くから始まり、中心から離れたところで終わる(= 相手を追い出そうとしている)

ということが分かりました。これらは縄張り行動の古典的な定義である「エサ資源の占有」および、「防衛行動」をそれぞれ満たしていると言え、テナガショウジョウバエは縄張り行動を示すことが証明できました。(実はこのような「縄張りの定義に従っているか検証する」という研究はありそうで少なく、長らく問題とされてきたのです)


さらに、

・エサ台を占有する時間が長くなるほどメスへの求愛時間が増える

・オスはライバルがエサ台にいない時ほど頻繁に求愛をする

ということが分かり、エサの占有には求愛機会を増加させる機能があることが示唆されました。


先輩達の研究から、 テナガショウジョウバエのメスは空腹時にエサの上で求愛を受け入れやすいこと 本種に特有の求愛行動はライバルに邪魔されるリスクがあること が分かっています。テナガショウジョウバエの特異な性的二型を進化させてきた要因として、「ライバルを追い払ってエサ資源を独り占めし、そこに訪れるメスと交尾できた(体格が良かったり前脚の長い)オスがより多くの子孫を残す」というプロセスが重要な役割を果たしているかも知れません。


本研究により、テナガショウジョウバエのオス達がエサをめぐって闘争することの重要性に加え、これまで言語化しにくいとされてきた”縄張り行動”を客観的に数値化する際にAIが役立つということが示されました。